1. 貴醸酒とは？

⚫︎製法・味の特徴

通常の日本酒は「米・米麹・水」で仕込みますが、貴醸酒はその“水”の代わりに清酒を使用します。そのため、発酵は通常よりも緩やかに進行し、酵母が活動しにくい環境下でじっくりと味わいが形成されます。

その結果、糖分が多く残り、アルコール度数はやや控えめながらも、甘み・酸味・旨味が調和した濃厚でまろやかな味わいに仕上がります。まさに“貴（とうと）い醸し”の名にふさわしい、日本酒の芸術品ともいえる存在です。

⚫︎歴史と背景

貴醸酒の誕生は比較的新しく、1973年（昭和48年）に国税庁醸造試験所（現・酒類総合研究所）によって開発された製法が起源です。この年に「日本酒の新たな魅力を探る研究」の一環として、水ではなく清酒で仕込むという方法が考案されました。

背景には、国内外のワイン市場の広がりに対抗する「甘口で高品質な日本酒を造る」という目的がありました。当時、日本酒業界では淡麗辛口が主流となっていましたが、芳醇で甘みのある貴腐ワインのような風味を持つ日本酒の可能性が模索されていたのです。

このような背景から生まれた貴醸酒は、味わいの重厚さや甘やかさ、熟成による複雑な香りなど、従来の日本酒とは一線を画す個性を持つ酒として、今なお多くの蔵元で造られています。

3. 料理とのペアリング

貴醸酒はペアリングでさらに輝く｜おすすめの組み合わせ

◆ 塩気のある食材と｜“甘じょっぱい”ハーモニー

貴醸酒の甘味と、塩味の強い食材が織りなす「甘じょっぱい」バランスは、多くの食通を魅了します。

• ブルーチーズ
  強い塩味と香りに、貴醸酒のとろりとした甘味が溶け合い、リッチな味わいに。
• 生ハム（プロシュートなど）
  薄切りにした生ハムに、軽く冷やした貴醸酒を合わせれば、まるでデザートワインのような余韻が楽しめます。
• 熟成ミモレットやパルミジャーノ・レッジャーノ
  旨みが凝縮されたチーズと好相性で、ワインに近い楽しみ方が可能です。

◆ 和菓子との相性も抜群｜上品な甘さが引き立つ

貴醸酒は、上質な和の甘味との相性も非常に良好です。甘味同士で重なり合いながらも、酒の酸味や余韻が味わいを引き締めてくれます。

• 栗きんとんや練り切り
  季節感あふれる和菓子の甘さと、貴醸酒の落ち着いたコクが調和します。
• 羊羹（ようかん）
  こしあんのなめらかな口当たりと酒のとろみが絶妙にマッチ。特に塩羊羹はおすすめです。
• きなこ餅や黒蜜を使った和スイーツ
  コクのある甘味を貴醸酒が優しく包み込み、余韻を豊かに広げます。

◆ 洋スイーツとも好相性｜まるでデザートワインのように

「甘い×甘い」ではなく、甘味の層が重なり、深みのあるペアリングが生まれます。

• ベイクドチーズケーキ
  酒の酸とケーキのコクが見事に調和し、バランスの取れた贅沢な口当たりに。
• チョコレートケーキやフォンダンショコラ
  カカオのビター感と貴醸酒の濃厚な甘さが、極上のマリアージュを生みます。
• カスタードプリンやミルク系スイーツ
  酒のとろみとプリンの柔らかさが好相性で、まろやかな甘さを堪能できます。

◆ 旨みの強い和食とも好相性｜意外な万能さ

甘口の酒＝スイーツ向きと考えがちですが、旨みの強い和食との相性も侮れません。

• 煮物（豚の角煮、筑前煮など）
  出汁と醤油の旨み、砂糖の甘味が貴醸酒の味わいと重なり、より深みのある味に。
• 鰻の蒲焼きや照り焼きチキン
  タレの甘辛さと貴醸酒のコクがマッチして、余韻が心地よく広がります。
• 味噌田楽や味噌炒め
  味噌の発酵由来のコクが、貴醸酒と響き合い、後を引く美味しさを演出します。

まとめ｜甘くて奥深い、貴醸酒の世界を楽しもう

貴醸酒は、従来の日本酒とは異なる、甘く濃厚で奥深い味わいが特徴の日本酒です。冷やしても温めても楽しめる柔軟性を持ち、食後酒からペアリングまで幅広いシーンで活躍します。

特に甘口好きの方や、ワインやリキュールをよく飲む方にとっては、最も親しみやすい日本酒のひとつです。ラベルに「貴醸酒」と書かれていたら、ぜひ一度手に取ってみてください。日本酒の新しい世界がきっと開けるはずです。

---

こちらの記事もおすすめ

古酒（こしゅ）とは？読み方と意味、味わいの魅力をわかりやすく解説

【古酒（熟成日本酒）とは？】その魅力とおすすめの飲み方｜黄金色に熟す大人の日本酒