日本酒は、米・水・麹・酵母というシンプルな原料から作られています。しかし、それぞれの原料にこだわることで、味や香り、そして飲み口に大きな違いが生まれます。本記事では、日本酒の原料について基本から、味わいへの影響、さらに近年注目されているトレンドまでを詳しく解説します。
目次
1. 日本酒の基本原料とは
米(酒米)
酒米は、通常の食用米とは異なり、大粒で心白(しんぱく)と呼ばれる白く不透明な中心部を持ち、吸水性や蒸し上がりが良いのが特徴です。
代表的な品種には「山田錦」「五百万石」「美山錦」などがあります。酒米の品種によっても、味や香り、舌触りが異なります。
水
日本酒の8割以上を占める水は、仕込み水として極めて重要です。ミネラル分を多く含む「硬水」はキリッとした辛口に、ミネラルの少ない「軟水」は柔らかく甘みのある酒に仕上がります。名水の地に酒蔵が多いのもそのためです。
麹(麹菌)
蒸した米に麹菌(Aspergillus oryzae)を繁殖させて作る麹は、米のでんぷんを糖に変える重要な役割を担います。麹の質によって、日本酒の甘味や旨味が大きく変わります。
酵母
酵母は糖分をアルコールと炭酸ガスに分解し、発酵を進める微生物です。酵母によって香りや酸味、味の輪郭が大きく左右され、華やかな吟醸香やすっきりした味わいを生み出します。
2. 原料による味わいの違い
【米と味わい】
| 酒米の品種 | 特徴 | 味わいの傾向 |
|---|---|---|
| 山田錦 | 芳醇な香り・心白が大きい | 香り高くまろやか |
| 五百万石 | 吸水性が高く溶けにくい | すっきりとした辛口 |
| 美山錦 | 寒冷地向け・割れにくい | 軽快で飲みやすい |
- 精米歩合が低い(よく削る):雑味が少なく繊細な味に
- 精米歩合が高い(あまり削らない):米の旨みが残り、濃厚な味に
【水と味わい】
| 水の硬度 | 特徴 | 味わいの傾向 |
|---|---|---|
| 硬水 | ミネラル豊富で発酵が活発 | 辛口・シャープな仕上がり |
| 軟水 | ミネラルが少なく発酵が穏やか | 甘口・まろやかで柔らかい |
- 例:伏見(京都)は軟水 → 優しい甘さの酒
- 例:灘(兵庫)は硬水 → キレのある辛口の酒
【酵母と味わい】
| 酵母の種類 | 香り・味の特徴 | 向いている酒のタイプ |
|---|---|---|
| 協会7号 | 落ち着いた香り、バランスのよい味 | 広く吟醸用及び普通醸造用に適している |
| 協会9号 | フルーティーで華やか | 吟醸酒・大吟醸酒 |
| 協会1801号 | 華やかな吟醸香、酸味控えめ | 吟醸系で香りを楽しむ酒 |
- 酒蔵ごとの「自社酵母」を使うケースもあり、個性が出る要素
- 酵母の選択によって、香りの強さ・酸味のバランスが大きく変わる
3. 原料の未来とトレンド
有機栽培米・無農薬米の使用
気候変動や環境保全への意識が高まる中、有機栽培米や無農薬米を使った日本酒造りが注目を集めています。これらの酒米は、農薬や化学肥料に頼らず、自然の力で育てられるため、収量や栽培の手間に課題はあるものの、土壌や地域ごとの個性が際立ちやすいのが特徴です。
味わいの面でも、米本来の旨みや優しい甘みが引き立ち、雑味の少ないクリアで柔らかな風味に仕上がることが多く、ワイン感覚で楽しむナチュラル志向の消費者から支持されています。また、欧州をはじめとした海外市場では「オーガニック認証」が輸出の鍵となる場面も増えており、持続可能性と品質の両面から今後ますます存在感を増すジャンルといえるでしょう。
低精白米・玄米酒
従来の日本酒は、米をどれだけ削るか(精米歩合)が品質の指標とされ、「大吟醸=高品質」というイメージが定着してきました。しかし近年ではその常識に一石を投じる“低精白”の酒が注目されています。精米歩合90%や80%といった、あまり削らない米を使うことで、米の外側に多く含まれるミネラルやたんぱく質由来の複雑な風味を生かした、力強く濃厚な味わいの酒が生まれます。
さらに玄米をそのまま使った「玄米酒」も登場。雑味が出やすいとされていた玄米の酒造りには高度な技術が必要ですが、発酵管理や酵母選定を工夫することで、これまでにないナチュラルでワイルドな味わいを実現しています。玄米が持つポリフェノールや食物繊維にも注目が集まり、日本酒を“ヘルシー”な選択肢と捉える新しい価値観も生まれています。
4. 原料から読み解く味わいマップ
吟醸系に合う酵母と米
吟醸酒はフルーティーな香りが特徴。1801号酵母など高香気の酵母と、山田錦のように精米歩合の高い酒米が組み合わされることで、華やかな吟醸香とすっきりした味わいが生まれます。
1801号の評判は良く、全国新酒鑑評会に出品する大吟醸酒には全国の酒蔵がこぞって1801号を使って金賞を獲得。現在は大吟醸酒用の酵母として圧倒的な存在感を示しています。
辛口・甘口と米・水の関係
辛口酒には五百万石や硬水、甘口酒には雄町や軟水がよく使われます。これらの組み合わせにより、飲み口が大きく変わるため、原料を知ることで好みの酒を見つけやすくなります。
飲み方のヒント
米や水、酵母の特徴を知ることで、お燗向きか冷酒向きか、食中酒か単体で楽しむべきかも見えてきます。原料の情報はラベルや蔵元のHPで確認できるので、購入時の参考になります。
まとめ
日本酒はたった4つの原料から成るお酒ですが、それぞれの原料が持つ個性や選び方によって、無限の味わいが生まれます。今後はさらに、環境への配慮や技術革新によって新しいスタイルの日本酒も登場するでしょう。飲み比べる楽しみも、原料を知ることで一層深まります。

◾️この記事を書いた人
SUZU
国際唎酒師の資格を持つ日本酒好きライター。日本酒はもちろん、ひれ酒をこよなく愛しています。
こちらの記事もおすすめ


![[2025年版:最新]全国のビールイベント完全ガイド](https://craftsakeworld.jp/wp-content/uploads/2025/08/h-9-e1755090510379.jpg)
![[2025年版:最新]全国の日本酒イベント完全ガイド](https://craftsakeworld.jp/wp-content/uploads/2024/12/Happy-Mothers-Day-Presentation-43-66-e1734744257340.jpg)



