目次
1. ぬる燗とは?|その定義と他の燗酒との違い
日本酒には温度帯によってさまざまな呼び名があり、味わいや香りも変化します。その中で「ぬる燗(ぬるかん)」は、温度がおおよそ40℃前後の状態を指します。お燗酒の中でも中庸な温度帯に位置し、熱すぎず冷たすぎず、まろやかな旨味と香りのバランスが楽しめるのが特徴です。
お燗酒の温度帯には、以下のような分類があります。
| 温度帯名 | 温度目安 | 特徴・印象 |
|---|---|---|
| 日向燗 (ひなたかん) | 約30℃ | ほんのり温かい。人肌よりも低く、優しい口当たり。 |
| 人肌燗 (ひとはだかん) | 約35℃ | 体温と同じ程度。まろやかさと香りがほんのり引き立つ。 |
| ぬる燗 (ぬるかん) | 約40℃ | 香り・旨みのバランスが最も良いとされる温度。 |
| 上燗 (じょうかん) | 約45℃ | やや熱めでコクが強調される。しっかりした味わいの酒に◎ |
| 熱燗 (あつかん) | 約50℃ | 口に含んだ瞬間に温かさを感じる。キレのある辛口酒に。 |
| 飛び切り燗 (とびきりかん) | 約55℃ 以上 | 熱々。個性の強い酒や燗冷ましを楽しむスタイルにも。 |
ぬる燗は、酒の個性を引き立てつつ、繊細な味わいも残す“ちょうどいい”温度帯として、多くの日本酒愛好家に親しまれています。
2. ぬる燗におすすめの温度帯と味の変化
ぬる燗の理想的な温度は40〜45℃。特に40℃は“燗冷まし”とも呼ばれ、穏やかな香りとやわらかな口当たりが引き立つ温度帯です。
この温度帯では以下のような味の変化が期待できます。
- 酸味が穏やかになり、旨味が丸く感じられる
- アルコール感がやや抑えられ、飲みやすくなる
- 吟醸酒でも香りが控えめに立ち、穏やかに楽しめる
おすすめの酒タイプは、純米酒、生酛系、熟成酒など。香りよりも旨味を楽しむタイプの日本酒がぬる燗にはぴったりです。
3. ぬる燗の歴史|江戸時代から続く「温めて楽しむ」文化
⚫︎起源|日本酒を温める習慣のはじまり
日本酒を温めて飲むという文化自体は、室町時代にはすでに存在していたとされています。当時は火にかけて直接温める手法や、湯煎にかけてじっくり温度を調整する方法などが用いられ、酒をより味わい深く楽しむ手段の一つとして燗酒が親しまれていました。
⚫︎江戸時代の発展|ぬる燗文化の確立

「ぬる燗」という概念が庶民の間に広まったのは江戸時代に入ってからです。この時代、酒は常温か燗で飲まれるのが一般的で、特に冬場には体を温める手段として、お燗が重宝されていました。
浮世絵や当時の文献にも、銅製の「ちろり」や「燗鍋(かんなべ)」を使って酒を温める様子が多数描かれており、庶民の暮らしに溶け込んでいたことが分かります。中でもぬる燗は、香りと旨みが最も調和する温度帯(約40℃前後)として通人に好まれ、食事との相性も良かったため、居酒屋文化とともに発展していきました。
⚫︎現代での再評価|ぬる燗の奥深さに注目
近年では、冷酒の人気が高まる一方で、温度によって変化する日本酒の香味に改めて注目が集まっています。とりわけ「ぬる燗」は、冷酒では味わえないまろやかさや旨味、酸味の広がりを引き出し、脂の多い料理や塩気のあるおつまみと好相性。燗酒専門店や日本酒イベントでは、「40℃前後」を香味のピークとして紹介するケースも増えており、和食とのペアリング提案にも活用されています。
4. ぬる燗の美味しい作り方と温度の測り方
ぬる燗を自宅で手軽に楽しむ方法として、最もおすすめなのが「湯煎」です。
ステップ1:酒器に日本酒を注ぐ
- 徳利(とっくり)やちろりに飲む分だけ注ぐ(180ml程度)
ステップ2:湯煎で温める
- 鍋やポットに70〜80℃程度のお湯を沸かし、酒器を湯に浸す
- 酒器の肩あたりまでお湯につけるのが目安
ステップ3:温度を確認
- 手で触ってほんのり温かいと感じたら約40℃
- 温度計があればより正確に調整可能
※電子レンジでも加熱できますが、急激な温度変化で風味が損なわれることがあるため注意が必要です。
5. ぬる燗に合う日本酒と料理ペアリング
冷酒ではわかりにくい味のふくらみや香味の広がりが感じられるため、「食中酒」としての実力が特に際立ちます。
ぬる燗に向いている日本酒のタイプ
● 純米酒(じゅんまいしゅ)
米と米麹だけで造られた純米酒は、しっかりとした旨味とコクがあり、ぬる燗にすることで甘みや酸味のバランスが整い、丸みのある口当たりに。普段は少し重たいと感じる酒でも、ぬる燗にすることで飲みやすくなります。
● 生酛(きもと)・山廃(やまはい)仕込みの酒
伝統的な造りである生酛や山廃仕込みの酒は、酸味と旨味が強く、複雑な味わいが特徴です。ぬる燗にすると、その味わいの奥行きが一層際立ち、力強さの中にまろやかさが加わります。常温や冷酒では見えにくい個性を、ぬる燗が引き出してくれます。
● 熟成酒(長期貯蔵酒)
一定期間寝かせて味を落ち着かせた熟成酒は、ナッツのような香ばしさやカラメル感、まろやかな風味が魅力。ぬる燗にすることで余韻がさらに長くなり、熟成の旨味と香りがじんわりと広がります。料理との相性も格段に良くなります。
ぬる燗に合うおすすめの料理
【和食編】
ぬる燗は、和食の素材本来の味を引き立てる「名脇役」です。

- 筑前煮:鶏肉や根菜の旨味が染み込んだ煮物は、純米酒のぬる燗と好相性。酒の酸味が油分をやわらげ、よりさっぱりと楽しめます。
- きんぴらごぼう:ごぼうの土っぽい風味と、山廃仕込みの酒の酸が絶妙にマッチします。
- 鰤の照り焼き:こってりとしたタレと脂ののった鰤には、熟成酒のまろやかさがぴったり。ぬる燗で飲むことで、後味がスッキリします。
- 鶏の塩焼き:香ばしく焼いた鶏の風味を、純米酒の穏やかな旨味が引き立てます。温かみのある燗酒が肉の旨味をやさしく包みます。
【洋食編】
意外かもしれませんが、ぬる燗は洋食との相性も良好です。

- グリル野菜:焼いた野菜の自然な甘味が、ぬる燗の穏やかな風味と調和。冷菜よりも温かい料理と合わせることで、酒の良さがより活きます。
- クリームチーズ:とろけるチーズのコクを、山廃仕込みの酸が引き締めてくれます。塩気と酸味のバランスが絶妙。
- ローストポーク:肉の甘みと香ばしさに、熟成酒の複雑な旨味が寄り添います。脂っこさもすっと流してくれます。
6. まとめ|ぬる燗は日本酒の“ちょうどいい”を味わう温度
ぬる燗は、冷やでも熱燗でもない中庸な温度帯で、日本酒本来の味わいや香りを引き出す最適な飲み方のひとつです。季節を問わず楽しめるだけでなく、初心者から上級者まで幅広く愛されるスタイル。
燗酒文化の歴史や、日本酒の奥深さを感じながら、自分の好みに合った“ぬる燗スタイル”を見つけてみてはいかがでしょうか。

◾️この記事を書いた人
SUZU
国際唎酒師と薬剤師の資格を持つ日本酒好きライター。日本酒はもちろん、ひれ酒をこよなく愛しています。
取得機関:https://ssi-sake.jp/
こちらの記事もおすすめ


![[2025年版:最新]全国のビールイベント完全ガイド](https://craftsakeworld.jp/wp-content/uploads/2025/08/h-9-e1755090510379.jpg)
![[2025年版:最新]全国の日本酒イベント完全ガイド](https://craftsakeworld.jp/wp-content/uploads/2024/12/Happy-Mothers-Day-Presentation-43-66-e1734744257340.jpg)



