
日本酒は、日本人の食文化に深く根付いた伝統的なお酒です。
米と水から生まれるこの飲み物は、長い歴史と神話の中で形作られてきました。
今回の記事では、弥生時代の稲作文化、口噛み酒の誕生、古事記に描かれた神話という3つの視点から、日本酒のルーツを紐解いていきます。
稲作文化の発展が日本酒を生んだ

日本酒の起源を語るうえで欠かせないのが、弥生時代の稲作文化です。
約2,300年前、日本列島には朝鮮半島を経由して水稲栽培が伝わりました。これが、のちの日本酒文化の土台となります。
稲作は単なる食糧生産だけでなく、共同体を支える生活の中心でした。
神への祈りや感謝を捧げる祭事では、稲から作られるお酒が「神聖な飲み物」として重宝されました。
この時期、日本酒の原型となる発酵酒が誕生したと考えられています。
口噛み酒 — 日本酒の原点

日本酒のもっとも古い製法とされるのが、『口噛み酒(くちかみざけ)』です。
これは、炊いた米を人の口で噛み、唾液の酵素で糖化させ、自然発酵させた酒です。
日本だけでなく、アジアの各地でも古来行われていた素朴な醸造方法ですが、日本では稲作文化の広まりと共に重要な役割を果たしてきました。
口噛み酒は、家族や村人たちの手を借りて少量ずつ醸される「共同作業」の酒であり、神に捧げる祭礼や、収穫の感謝の場面で欠かせないものでした。
特に、人の「手」と「口」から生まれる酒は、神と人間をつなぐ象徴的存在だったのです。
古事記に登場する「日本酒の神話」

日本酒の歴史は、日本最古の歴史書『古事記』と、日本の正史として編纂された『日本書紀』にも刻まれています。
中でも有名なのが、スサノオノミコトと八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の伝説です。
スサノオは村人を苦しめる巨大な蛇「八岐大蛇」を退治するため、特別な酒「八塩折之酒(やしおりのさけ)」を用意します。
大蛇はこの強い酒を飲み干し、酔い潰れた隙にスサノオは討伐に成功。
このエピソードは、日本酒が古来「神聖な力」を持つ飲み物として、神話の中でも重要な役割を果たしてきたことを示しています。
また、古事記に描かれる祭りや宴席では、神と人間が日本酒を酌み交わす描写もあり、日本酒は神と人をつなぐ絆の象徴だったのです。
まとめ
日本酒は単なる飲み物ではありません。
稲作を通じて生まれ、口噛み酒として人々の手で育まれ、神話の中では神々と人を結ぶ「神聖な酒」として描かれてきました。
そんな長い歴史と文化を背景に持つ日本酒を知れば、グラスの中の一杯がより深く、美味しく感じられることでしょう。