
目次
はじめに|「酒母」がなければ日本酒はできない
「酒母(しゅぼ)」とは、日本酒造りにおいて酵母を健全に育てるための“スターター”です。
発酵の準備段階でありながら、最終的な酒の香りや味わいにも大きな影響を与える、非常に重要な工程です。
この記事では、「酒母とは何か?」という基本から、
その役割・作り方・種類による違いまで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
酒母とは?|酵母の“温室育ち”をつくる工程
酒母は、「酒の母」と書く通り、日本酒のもととなる酵母を培養する工程・またはその液体のことです。
この段階でしっかりと元気な酵母を育てておかないと、後の発酵(もろみ仕込み)がうまくいかず、酒質にも悪影響が出ます。
▼ 酒母づくりの目的は?
- 健康で勢いのある酵母を大量に育てる
- 雑菌の繁殖を防ぐ
- 後の発酵がスムーズに進むように準備する
酒母づくりの基本的な工程
酒母は、麹・蒸米・水・酵母を少量で混ぜて発酵させることで作られます。
期間は約2週間前後。温度管理と衛生管理が非常に重要です。
ステップ | 内容 |
---|---|
①麹と蒸米を仕込む | 酵素で糖をつくり、酵母のエサとなる |
②酵母を加える | 特定の酵母菌(協会酵母など)を添加 |
③酸性環境にする | 乳酸や乳酸菌で雑菌を防ぐ環境をつくる |
④酵母が増殖する | 酸性下で酵母だけが勢いよく増える |
こうして完成した酒母は「もろみ仕込み」に移され、大量の蒸米・麹・水とともに本格発酵に進みます。
酒母の種類と特徴
酒母には、製法によっていくつかのタイプがあります。
それぞれに、香りや味わい、酒造りの難易度に違いがあります。

生酛(きもと)系酒母
- 【特徴】乳酸菌を自然に繁殖させて、乳酸を生成
- 【メリット】自然の力を活かし、力強い味わいが出る
- 【味わい】複雑で厚みがあり、酸味もしっかり
山廃(やまはい)酒母
- 【特徴】生酛の“山卸し(やまおろし)”という作業を省いた製法
- 【メリット】自然な乳酸菌繁殖+作業効率のバランスが良い
- 【味わい】生酛に近いコクとキレがある
速醸(そくじょうけい)系酒母
- 【特徴】人工的に乳酸を加えて雑菌の繁殖を抑える
- 【メリット】短期間で安定した酵母が育つ。現在の主流
- 【味わい】きれいでクリアな味になりやすい
※山卸し(やまおろし)とは、
生酛造りで蒸米と麹をすりつぶして均一にし、乳酸菌の繁殖を助ける伝統的な作業です。

酒母の違いが香りや味にどう影響する?
酒母の種類によって、日本酒の個性は大きく変わります。
酒母の種類 | 香り | 味の傾向 | 向いている酒 |
---|---|---|---|
速醸系 | 華やか | 軽快・すっきり | 吟醸酒・大吟醸 |
生酛 | 控えめ | 力強く濃醇 | 純米酒・燗酒 |
山廃 | 穏やか | コクとキレ | 熟成酒・料理酒 |
たとえば、お燗に向いている“酸味のある旨口タイプ”は生酛や山廃由来が多く、
フルーティーで香り高い吟醸酒は速醸系が主流です。
酒母づくりは“日本酒の性格”を決める
酒母の状態によって、その後のもろみ仕込み(本発酵)に影響が出るため、
杜氏(とうじ/酒造りの責任者)たちは、酒母に“酒の人格が宿る”とも表現します。
- 酵母が元気 → 発酵がスムーズ → 雑味が出にくくなる
- 酵母が弱い → 発酵にムラ → 味のバランスが崩れる
そのため、酒母づくりは“酒造りの成否を握る第一関門”とも言われるのです。
まとめ|酒母は日本酒の“心臓”
酒母は、酵母を育てるだけでなく、日本酒の土台となる発酵環境をつくる大切な存在です。
- 酵母を健全に増やすためのスターター的存在
- 酒質(味・香り・発酵力)に大きな影響を与える重要工程
- 製法(速醸・生酛・山廃)の違いによって、香りや味わいが変化する
日本酒を選ぶ際、「生酛仕込み」「山廃仕込み」といった記載があれば、ぜひその酒母の違いにも注目してみてください。
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