
日本酒の歴史をたどる上で欠かせない古文書の一つが、平安時代に編纂された法典『延喜式(えんぎしき)』です。
「延喜式」は、延喜5年(905年)に編纂が開始され、927年に完成した全50巻の格式(律令制の実務マニュアル)です。
この中には、日本酒の製造方法や使われ方、貢納のルールまで詳しく記されており、当時の日本酒がいかに国家と文化にとって重要だったかが読み取れます。
『延喜式』とは?

延喜式は、平安時代の律令国家が中央集権的に社会や税制、祭祀を管理するために編纂した法令集です。
特に注目すべきは、食文化や酒造に関する記録が詳細に残されている点です。
国家の重要儀式、宮中の宴席、神社への供え物としての「酒」がどのように扱われていたのかが体系的にまとめられています。
延喜式に登場する日本酒の種類
延喜式には、当時の酒造りの技法や分類が明確に記されています。
特に注目されるのは、以下のような分類です。
- 清酒(せいしゅ):現在の日本酒に近い、ろ過された酒
- 濁酒(だくしゅ):米や麹が完全には取り除かれないままの酒
- 練酒(ねりざけ):米や麹を練り合わせた濃厚な酒
- 醴酒(こしゅ):甘口のどぶろくに近い酒
現代ではあまり聞き馴染みのない酒の種類も多く、酒造りが今ほど洗練されていなかった時代ならではの多様性を感じさせます。
この記述は、日本酒が平安時代には既に多様な味わいと用途を持つ飲み物だったことを示しています。
酒造りの国家管理と延喜式
延喜式には、酒造りを担当する「造酒司(さけのつかさ)」という役所の業務内容も細かく記されています。
造酒司は、主に宮中で使う日本酒や、祭祀用の清酒を製造し、厳密な製法と品質管理が求められていました。
税として地方から納められる酒も、品質規定が細かく定められており、当時から「良質な酒」が国の管理下にあったことがわかります。
日本酒と神事 — 神と人をつなぐ役割

延喜式の記述では、日本酒がただの飲み物ではなく、「神に捧げる神聖な供物」として扱われている点も見逃せません。
特に宮中祭祀や、各地の神社での神事には、必ず日本酒が使われ、醸造から供えるまでの手順が厳密に指定されていました。
これは、日本酒が古来より神と人をつなぐ「神聖な飲み物」として日本文化に根付いてきたことを物語っています。
まとめ|延喜式が教える日本酒の歴史的価値
『延喜式』の記述をたどれば、日本酒が単なる嗜好品ではなく、国家や信仰、文化と深く結びついてきた歴史が浮かび上がります。
平安時代には、酒は祭祀、宴席、そして貢納品として欠かせない存在であり、日本人の生活と精神文化の核を成していました。
現代でも日本酒は「米と水から生まれた神聖な酒」として親しまれていますが、その原点は延喜式の時代にすでに確立されていたのです。
この歴史を知ることで、日本酒の奥深い魅力をより一層楽しむことができるでしょう。
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