
目次
はじめに|「生酛(きもと)」って何?読み方と意味
⚫︎生酛:日本酒の伝統的な作り方
「生酛(きもと)」とは、日本酒の伝統的な造り方のひとつで、「きもと」と読みます。江戸時代から続くこの手法は、自然の力を最大限に活用し、自然の微生物の働きによって時間をかけて酒母(酛)を育てていく方法です。
⚫︎速醸酛:現代の主流
現代の酒造りでは、速醸酛(そくじょうもと)と呼ばれる方法が主流です。
生酛はその前の段階、自然の摂理に従った手間と時間をかけた製法です。乳酸を人工的に添加して短期間で酒母を造る製法です。
生酛造りの日本酒は、米本来の力強さや複雑な味わいが引き出されるため、根強いファンも多い製法です。
生酛の仕込み工程と特徴
⚫︎時間と手間がかかる生酛仕込み
生酛造りは、酒母をつくる際に自然の乳酸菌を取り込み、発酵環境を整えていくことが最大の特徴です。
- 米と水と麹を混ぜる
最初に蒸米、水、麹を混ぜて酒母を仕込みます。この段階では、雑菌の繁殖リスクも高いため、衛生管理が重要になります。 - 山卸(やまおろし)作業
木の棒などを使って、蒸米をすりつぶしながら空気を含ませる作業です。乳酸菌や酵母が自然に繁殖できるような環境を整えるための手間のかかる作業で、これこそが生酛造りの象徴とも言える工程です。 - 乳酸菌と酵母の自然繁殖
添加物を使わず、蔵に棲みつく天然の乳酸菌によって酸性環境が整い、そこに自然由来の酵母が繁殖していきます。時間と温度管理が重要で、30日以上かけてじっくりと酒母が育ちます。 - 清酒酵母の培養
酒母造りの後半になれば、残ってる乳酸菌も生成したアルコールにより死滅し、結果的に清酒酵母だけが純粋に培養されます。

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このように、長い時間と手間が必要な分、完成した日本酒は骨太で旨味に富み、熟成に耐える力強い味わいを持つのが特徴です。
生酛の味わいの魅力
⚫︎米の旨味を味わえる
生酛仕込みの日本酒は、一般的に以下のような特徴があります。
- 酸味がしっかりしている:自然発酵によって生まれる豊富な有機酸によって、味に奥行きとキレが出ます。
- 旨味が深い:麹や酵母の働きにより、米の旨味がしっかりと引き出されます。
- 熟成に強い:しっかりとした骨格を持っているため、冷やでも燗でも楽しめ、熟成させることでさらに味に深みが出ます。
現代のすっきりとした淡麗系とは対照的な、どっしりとした「飲み応え」を求める方におすすめです。
生酛と山廃酛の違い
生酛とよく比較されるのが「山廃酛(やまはいもと)」です。こちらも自然の乳酸菌を使う伝統的な製法ですが、工程の中で「山卸し」を省略した製法になります。
項目 | 生酛 | 山廃酛 |
---|---|---|
山卸し作業 | あり | なし |
味わい | 酸味と旨味が濃厚 | ややマイルドで香り高い |
仕込み期間 | 長い | 生酛よりはやや短い |
どちらも深い味わいの日本酒ができる伝統製法であり、それぞれに個性があります。
乳酸菌の役割
⚫︎乳酸の生成
生酛造りにおいて最も重要なのが「乳酸菌」です。
酒母の中で乳酸菌が発酵して乳酸をつくり、酸性化となることで、雑菌や野生酵母を駆除(殺菌)します。
⚫︎アルコール発酵の促進
乳酸菌によって酸性化された環境は、酵母にとって好ましい環境となり、酵母が活発に活動し、アルコール発酵を促進します。
⚫︎雑味を防ぐ
生酛造りで造られた日本酒は、乳酸菌の働きによって雑味が少なく、濃厚で旨みが強い味わいになると言われています。
「生酛」とラベルに書く理由

⚫︎伝統製法の価値を伝える
生酛は手間も時間もかかる製法です。それを伝えることで、日本酒の深い味わいと造り手のこだわりが伝わります。
⚫︎味の傾向を示す
「生酛仕込み」とあれば、酸味がしっかりしていてコクが深く、燗にも合うような骨太な味わいであると判断しやすくなります。
⚫︎ブランド力・付加価値の向上
「生酛」の表示は、伝統と職人技の象徴でもあり、商品価値を高める要素になります。
まとめ|生酛仕込みの日本酒の魅力
手間と時間を惜しまず、自然の力で丁寧に醸された生酛の日本酒は、まさに“日本酒らしさ”を味わえる一杯です。酸と旨味のバランスが取れた味わいは、和食との相性も抜群で、燗酒にするとその真価を発揮します。
普段の晩酌から特別な日の一杯まで、味わい深い日本酒を探しているなら、ぜひ一度「生酛仕込み」の一本を試してみてください。

◾️この記事を書いた人
SUZU
国際唎酒師の資格を持つ日本酒好きライター。日本酒はもちろん、ひれ酒をこよなく愛しています。
取得機関:https://ssi-sake.jp/
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