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はじめに|日本酒と酵母の関係とは?
日本酒の風味を決める大きな要素の一つが「酵母」です。酵母は日本酒における発酵の主役であり、香りや味、アルコール度数を左右する存在。日本酒の主な原料は米・水・米麹の3種類ですが、使う酵母によって味わいは大きく変化します。
本記事では、酵母の基本から日本酒における働き、代表的な酵母の種類までを「国際唎酒師」兼「薬剤師」がわかりやすく解説します。
1. そもそも酵母とは?
⚫︎酵母の定義
酵母は、5~10μmほどの球形または楕円形の単細胞生物の真核生物です。
自然界では、樹液、花蜜、果実などに多く見られ、350種類ほど存在するとされています。
真核生物とは、細胞内に細胞核を含んでる生物です。
パンやワイン、ビール、そして日本酒といった発酵食品に欠かせない存在で、糖を分解してアルコールと二酸化炭素を生み出す働きを持ちます。
食品や酒類に用いられる酵母は出芽によって増殖する出芽酵母の一種で、「Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)」と呼ばれます。パン用酵母、味噌用酵母、醤油酵母、酒類用酵母などに分類されます。
⚫︎酵母の種類
酒類用酵母はさらに、ビール用酵母、ワイン用酵母、ウイスキー用酵母、日本酒(清酒)用酵母などに分けられます。
日本酒(清酒)用酵母の特徴として、低温下でも活動でき、高濃度のアルコールと優れた香気を生成するものが選択され、使用されています。
酵母によって香気成分が異なるため、日本酒の個性を形成する重要な要素となります。
2. 日本酒の酵母はどこから来るのか?
⚫︎自然界の酵母
酵母はもともと自然界に広く存在し、空気中、植物、果実の皮、さらには人の皮膚にも見られます。
⚫︎蔵付き酵母
長年酒造りを続けてきた酒蔵には、その蔵に棲みついた「蔵付き酵母」があります。蔵の壁や道具、空気中に生息するこれらの酵母は、その蔵独自の風味を作り出します。
⚫︎協会酵母
現在最も一般的なのが、日本醸造協会が提供している「協会酵母(きょうかいこうぼ)」。品質が安定し、意図した香味設計がしやすいため、多くの酒蔵で使用されています。
3. 日本酒酵母の化学的な働きとは?
酵母はブドウ糖(C6H12O6)をアルコール(エタノール)と二酸化炭素に分解します。
発酵の基本反応式:
C6H12O6(ブドウ糖) → 2C2H5OH(エチルアルコール) + 2CO2 (二酸化炭素)+ エネルギー
この発酵によってアルコールが生まれ、日本酒が完成します。副産物としてエステル(果実のような香り)や有機酸(味の深みを与える)が生成され、これが日本酒の香りと味わいに大きく影響します。
発酵の進行や香味のバランスは、温度、pH、糖度、酸素の量などさまざまな要素によってコントロールされます。
4. 協会酵母とは?きょうかい酵母の役割
協会酵母は、日本醸造協会が提供する純粋培養酵母のこと。特定の香味を安定して出せるよう開発されており、雑菌の混入リスクを避けつつ、狙った日本酒のスタイルを実現するための重要なツールです。
⚫︎協会酵母の種類と特徴

協会酵母 | 分離源 | 特徴 |
---|---|---|
協会6号 | 新政酒造場 | 発酵力が強く、香りはやや低くまろやか、淡麗な酒質に最適 |
協会7号 | 真澄醪 | 華やかな香りで広く吟醸用及び普通醸造用に適す |
協会9号 | 熊本県酒造研 | 短期醪で華やかな香りと吟醸香が高い |
協会10号 | 東北地方醪 | 低温長期もろみで酸が少なく吟醸香が高い |
協会11号 | 変異株 | 醪が長期になっても切れが良く、アミノ酸が少ない |
協会14号 | 北陸地方醪 | (金沢酵母)酸が少なく低温中期型醪の経過をとり 特定名称清酒に適す |
協会601号 | 変異株 | 発酵力が強く、香りはやや低くまろやか、淡麗な酒質に最適。 性質は6号酵母と同じ。 |
協会701号 | 変異株 | 華やかな香りで広く吟醸用及び普通醸造用に適す。 性質は7号酵母と同じ。 |
協会901号 | 変異株 | 短期醪で華やかな香りと吟醸香が高い。 性質は9号酵母と同じ。 |
協会1001号 | 変異株 | 低温長期醪で酸が少なく吟醸香が高い。 性質は10号酵母と同じ。 |
協会1101号 | 変異株 | 醪が長期になっても切れが良く、アミノ酸が少ない |
協会1401号 | 変異株 | (金沢酵母) 酸が少なく低温中期型醪の経過をとり特定名称清酒に適す。 性質は14号酵母と同じ。 |
協会1501号 | 秋田県内酒造場 | (秋田流・花酵母AK-1) 低温長期型もろみ経過をとり、酸が少ない。 吟醸香の高い特定名称清酒に適す。 |
協会KT901号 | 901号の変異株 | きょうかい901号から新たに分離した「酸生成の多い清酒酵母」。 味に爽やかさと旨味が増すリンゴ酸とコハク酸が増えます。 お燗酒や味の濃醇なお酒造りに適す。 |
他にも様々な種類の酵母があります。
5. 酵母の違いで広がる日本酒の楽しみ方

同じ米と水を使っても、酵母の選択によってまったく異なる香味の日本酒が生まれます。
例えば、華やかな香りを持つ9号系の酵母を使えばフルーティーな日本酒に。酸味のあるシャープな味わいを出したいなら6号系が向いています。
このように、自分の好みに合った酵母を知ることは、日本酒を選ぶうえで大きなヒントになります。ラベルに「酵母○号」と記載されていたら、それが味の手がかりになるのです。
まとめ
酵母は、日本酒の「性格」を決める設計図のようなものです。味のバランス、香り、飲みやすさ──
それらの違いの多くは、実は酵母の違いによって生まれています。
日本酒に少し慣れてきたら、ぜひ「酵母」に注目して選んでみてください。お気に入りの酵母が見つかれば、日本酒の世界がさらに楽しく、奥深いものになるはずです。

◾️この記事を書いた人
SUZU
国際唎酒師と薬剤師の資格を持つ日本酒好きライター。日本酒はもちろん、ひれ酒をこよなく愛しています。
取得機関:https://ssi-sake.jp/
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